新型コロナウイルスに対するイベルメクチンの効果について

ivermectin

YouTubeにイベルメクチンの効果について動画をupしました

イベルメクチンのRCT→JAMA. 2021 Mar 4. doi: 10.1001/jama.2021.3071. Online ahead of print. PMID: 33662102

市民の皆様へ

新型コロナウイルス感染症に対するイベルメクチンの効果
ならびにその情報の読み取り方について

2021年8月22日
特定非営利活動法人アヘッドマップ
共同代表 桑原秀徳
共同代表 青島周一
共同代表 山本雅洋

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、SNS上では「イベルメクチン」という薬の名前がトレンド入りするなど、世間の関心を集めています。
 イベルメクチンは、日本では主に疥癬治療に用いられる薬ですが、様々な寄生虫や、ダニやハエの成虫・幼虫などの節足動物に対する駆虫効果があり、犬や猫をはじめとしたペットや家畜の病気治療にも応用されています。また、イベルメクチンは、熱帯地域やアフリカ南部で有病者が多いオンコセルカ症の治療薬として用いられてきた歴史があります。オンコセルカ症はアフリカを中心に世界中で約9千万人が罹患してしまうリスクに曝されており、そのうち3700万人以上が既に感染していると推定され、合併症として永久失明した人は30万人と見積もられています。それに対してイベルメクチンは世界で約60万人の失明を防いだとも言われており、こうした功績がたたえられ、原薬を発見した北里大学特別栄誉教授の大村智氏は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。そのようなイベルメクチンに、試験管内の実験的研究とはいえ新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用があることが報告されたわけですから、感染者が急増するなかでイベルメクチンに関心が集まっていったのはごく自然なことと考えています。
 以下、専門的な用語もありますが、きちんと正しくご説明するために必要なこととしてご容赦ください。
 さて、実際に新型コロナウイルス感染症にイベルメクチンは効果があるのかについて科学的根拠を確認しますと、2021年8月13日現在、プラセボと比較した二重盲検ランダム化比較試験では、新型コロナウイルス感染症に対して有効という結果は得られていません。死亡リスクを含め臨床的症状の改善が示唆されているのは、非盲検試験とシステマティックレビュー・メタ分析です。
 この「メタ分析」というものは、質の高いエビデンスのように語られることも多いですが、そのようなことは全くありません。むしろ、プラセボを用いて適切にデザインされた二重盲検ランダム化比較試験の方が、研究結果の妥当性という意味では優れていると考えます。
 例えば、2020年のメタ分析(Biswaら:2020年)は、それ以前に報告されている研究の質や量を踏まえると、解析結果の妥当性は著しく低いと考えられます。さらに、2021年のメタ分析(Bryantら:2021年)においては、それに統合解析された研究のうち統計的に有意な差が出ているものはNiaeeらと、Elgazzarらの2研究のみですが、これらはどちらも論文として認められるために必要な査読がなされる前のデータであり、さらにElgazzarらの論文は2021年7月14日付で撤回されているようです。また、Niaeeらの論文については、撤回はされていないものの、この研究で検証された事象は死亡ではなく、胸部CTスキャン、入院時間などに設定されています。
 これら、撤回されるか、そうでなくても客観的な査読を経る前という、決して質の高くない情報を含めて行われたメタ分析の妥当性は、当然低いものと考えることが合理的ではないでしょうか。質が高いと言えないこの2研究を除外してメタ分析をすれば、死亡リスクに統計学的有意差は見られないものと思われます。なお、Hillらのメタ分析(Open Forum Infectious Diseases, ofab358, https://doi.org/10.1093/ofid/ofab358)でも死亡リスクの解析にElgazzarらによる撤回された研究が組み込まれており、同様のことが言えると考えております。
 薬の効果が「ある」のか「ない」のかについて、我々は様々な議論を歓迎いたしますが、さしあたり効果の「ある」「ない」を統計学的有意差の話にするのであれば、このように妥当性の低いメタ分析の結果だけでは、有意な効果の是非をめぐる議論さえ難しいと我々は考えております。なぜならば、統計学的に有意な効果があるかないかを論じるためには、必要な被験者数の見積もりを厳密に行って実施されたランダム化比較試験の結果を踏まえなければならないからです。
 そういう意味でも、現時点での情報から「イベルメクチンはメタ分析で効果が示されているから、早期承認すべき」と解釈するのは早計であり、情報の読み解き方に問題があることを指摘することができるでしょう。そのような不十分な情報リテラシーを背景にした臨床現場での意思決定や医療政策が行われてしまうことは、結果として、新型コロナウイルス感染症患者さんを本来背負う必要のない副作用リスクに曝してしまい、貴重な医療資源を浪費することになるのではないかと、我々は大変憂慮しております。具体的には、通常の疥癬治療と用法用量が異なることによる副作用や他の薬との相互作用リスクが、期待される薬効と相対的に比べると遥かに大きいこと、承認外の使い方や個人輸入による服薬では万一の際の副作用救済制度を利用できないこと、新型コロナウイルス感染症による需要が増えることで本来の用途(疥癬や寄生虫、オンコセルカ症等の治療)に向けた供給が滞ってしまい、本当にイベルメクチンが必要な患者さんが効果的な治療を受けられなくなる恐れがあること、などを懸念しております。
 当法人では、市民の医療や健康に関する情報リテラシー向上を理念とした活動を行っております。本件のような議論を経て、共に学び合う機会がもたらされ、それが医療や健康に関するより良い意思決定に繋がることを切に願うものであります。それらの情報の読み方や使い方について私共と学び合うことにご興味がございましたら、お気軽にご連絡賜りたいと存じます。よろしくお願いいたします。

以上

以下のリンクより上記文書をダウンロード可能です

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